「日本の自立のための一考察」

KS


要約:
1;日本国憲法は英訳ではない。マッカーサーが作らせたものである。
2;わが国はアメリカに依存することできない。自立の道を歩むべきである。
3;わが国は米国の政治秩序に盲従してはいけない。わが国の利益のために動くべきである。

本文:
最近、本屋で『日本国憲法』童話屋 *(1) が置いてあるのを見ます。表紙に以下の文章があります。

「子どもたち、この新しい世紀のはじめに、「日本国憲法」を読みなさい。なぜいのちや一個人というものが尊いのか、なぜ自由や平等が大切であるのかを、深く考え、話し合ってほしい。
―― そして、ともに遠く未来を見つめよう。千年後の子どもたちに遺すもの ―― 青い星、地球。」

彼らの思想はあえて問いません。しかし、「付 教育基本法 英訳日本国憲法」と書かれています。「英訳日本国憲法」とは…。つまり、日本国憲法は、先ず日本語で作られて、後から英語に翻訳されたと言いたいのでしょうか。

日本国憲法は、別名「マッカーサー憲法」と呼ばれています。ダグラス・マッカーサー元帥(連合国側最高司令官、SCAP)が民政局のホイトニー少佐に命じて作成させたものです。その憲法案が日本語に翻訳されました。それが現在の日本国憲法です。

なぜこのような混乱が起こっているのでしょうか。この問題を解くカギとなる一冊の本があります。題名を『Altered States The United States and Japan since the occupation』 *(2) と言います。米国で1997年に出版されました。著者はアリゾナ大学で歴史学を教えているマイケル・シャラー教授です。民主党系と言われています。ハーバード大学アジアセンターのウォーレン・コーヘン氏が参照文献 *(3) にしています。残念ながら未邦訳です。「Harapanの本棚」というサイト *(4) で、「占領以降のアメリカと日本:変化した日米」という題名で紹介されています。

確かに alter には change と言う意味があるので「変化した」と訳しても良いと思います。例えばジーニアス英和大辞典 *(5) は alter と言う単語を次のように定義しています。

―― 動 他 1 D S [SVO] <人が><衣服>を作り変える;<家・部屋>を改造する;<人・物・事が><人・物・事>を変える、改める 《◆ change より部分的な変化を強調する》(例文省略)
―― 2 《主に米略式・豪》…を去勢する、…の卵巣を取り去る 《◆ castrate, spay の婉曲語》

上記1の意味で、「Altered States」を「改造された国」と訳すとどうなるでしょうか。戦前のわが国は、皇室制度(天皇制)の国家でした。戦後、マッカーサーが日本人に「民主主義」を植え付けようと思想改造(thought reform)したのです。

続けて上記2の意味で、「Altered States」を「去勢された国」と訳すとどうなるでしょうか。軍国主義者や超国家主義者が支配した「枢軸国(The Axis)」と呼ばれていました。戦後、マッカーサーが日本人を平和愛好国民に去勢したのです。

また「Altered State(s) of Consciences」や「Altered states of mind」という用語があります。『研究社 医学英和辞典』 *(6) による「Altered State(s) of Consciences」の定義をあげます。

《通常の覚醒した意識の状態と異なる》異常な精神状態、意識変容状態《嗜眠状態(自己)催眠状態、麻薬による幻覚・催眠中の夢など;略ASC》

そして心理人類学(Psychological Anthropology) *(7) という学問で、ASCはシャーマニズムを説明するために使われています。シャーマニズムの定義は、『シャーマニズの精神人類学』 *(8) という本から引用します。

語源がどんなものであれ、「シャーマン(shaman)」という言葉は、呪術医(medicine man)、呪医(witch doctors)、魔術師(sorceres)、魔法使い(wizards)、魔術使い(magicians)、預言者(seers)などさまざまな文化のなかでいろいろに呼ばれてきた特定のヒーラー(治癒者、healers)のグループを言い表わすために人類学者が広く用いてきた。(中略)
 定義には、広義と狭義がある。広義には、「唯一規定可能な特徴として挙げられるのは、このような特殊能力者が、共同体のためにコントロールされたASCに入るということである」*(9)

このシャーマンの発展したものに、祭司王(Priest-King) *(10) があります。『文化人類学辞典』の神聖王権(divine kingship)に以下の文言があります。

神的なものを具現し、聖性を帯びた宇宙論的な力をもつとされる王を“神聖王”あるいは“神なる王”、“聖なる王”という。そのような王を戴く制度である神聖王権は、いわゆる未開社会や古代社会に広くみられる。王と神性の一体化には、王自身が神そのものとされたり、神が王の身体に入って同一視される場合などがあるが、王が神や神話的文化英雄の子孫とされることが多い。(中略)
 現人神かつ至高神の子孫であり祭司でもあるというような性格は古代日本の天皇にもみられる。

マッカーサーがまるで神(天皇)のように振舞った事をひっかけているのかもしれません。マッカーサーに都合の悪い事は検閲で書かれませんでした。マッカーサーがトルーマン大統領に解任されて帰国するとき、日本の新聞は「ありがとうマッカーサー」と書きました。現在、日本国憲法をありがたがる日本人たちは、未だにマッカーサーの呪縛が解けていないのかもしれません。

ところで、シャラー教授の本は『マッカーサーの時代』・『アジアにおける冷戦の起源』 *(11) の2冊が出版されています。残念ながら『Altered States』が翻訳されていないのは本の題名が原因かもしれません。

シャラー教授はマッカーサーの日本統治に関して、日本人学者の本を参照文献として挙げています。それは、片岡鉄哉シカゴ大学名誉教授が書いた『The price of Constitution』です。現在『日本永久占領』(講談社) *(12) という題名で販売されています。

『Altered States』は、戦後からソ連崩壊までの日米関係の変遷を書いています。例えば、ソ連崩壊後に作られたジョークは、「良い知らせ:冷戦が終わった。悪い知らせ:ドイツと日本が勝った。」 *(13) という物です。最後にシャラー教授は、日本はもう安全保障や経済成長に関してアメリカに依存できないと書いています *(14)。 みなさんはどう考えていますか。私は自らの手と頭でアメリカから自立するべきだと思います。


次に「New World Order(新世界秩序または世界新秩序)略NWO」を考えます。ソ連崩壊後、ジョージ・ブッシュ大統領は「New World Order」を宣言しました。ところでみなさんは「New World(新世界)」とは何を意味するかわかりますか。
「New World(新世界)」とはアメリカの事です。古くはトマス・ペインが、アメリカの反乱支持パンフレット『コモンセンス』でアメリカを新世界と規定しています *(15)。アメリカを新世界と位置づける考えは「アメリカ例外主義(American Exceptionalism)」を生み出しました。『地政学辞典』ではアメリカ例外主義を次のように定義しています *(16)。

アメリカ例外主義は、アメリカの歴史書でもよく顔をのぞかせる *(17)(Tyrrell,1911)。その起源は、人民支配の共和思想とキリスト再臨による千年王国思想の伝統の融合にあり、その中核には次の三要素があるようである。(1)“歴史展開の固定パターン”と“歴史展開の法則”からアメリカは逸脱したとする認識、(2)この逸脱は不変かつ永続的であるとする信念、(3)アメリカの国家的優越性に関する確固たる信念、である*(17)(Tyrrell,1911)。ほかの国と違って、アメリカはヨーロッパにみられる階級紛争、革命争乱、権威主義的力の政治を避け、他者の模範となる自由と、束縛からの解放を堅持しているとする。

さらに、レーガン大統領はニカラグアのコントラ支援演説で国民に次のように訴えたそうです。

全能の神が、二つの大洋の間に偉大にして善なる地“新世界”をおかれたのは、理由がある。私はこの信念をしばしば語ってきた。海に守られた我々は、この本土で外国勢の攻勢をうけたあの悲劇からほぼ2世紀の間、平和と自由の恵みを享受してきた。この貴重な贈物を護りたまえ。……我々は、今なおアメリカが希望のビーコン、諸国民の光であることを、これからも明らかにしていく。希望はこの地に煌々として燃え、大地を照らし、時代を越えた光を生じ、平和と自由の未来に対する道しるべになっている。そうだ、ここにはこの希望を顕示する偉大な機会がある。*(18)(Reagan, 1988 : 35)

ニコラス・スパイクマン(Nicholas Spykman 1893-1943)という地政学者がいました。彼は、旧世界と新世界を次のように定義しました。

グローバルな政治の世界に基本的存在として旧世界と新世界の二つを認めた。旧世界、ユーラシア大陸、アフリカ、オーストラリアおよびその三大陸の沿岸諸島から構成され、対する新世界は西半球の南北アメリカである。*(18)

私たち日本人のなかには、「新世界秩序」と聞くと無条件に従ってしまう人々がいます。しかし、もう一度よく考えてみて下さい。アメリカが主導するアメリカのための秩序です。例えばキッシンジャーは、アメリカから見た日中関係について次のように語りました。

“Ulitmately, it was in America’s interest to keep Japan and China concerned about the other.” *(20)
 “究極的には、日本と中国を他人のようにし続ける事がアメリカの利益なのだ。”

これは「分割し統治せよ(divide and rule)」と言うリアリストの考え方です。日米同盟を最優先に考えるのは結構ですが、それが日本の真の国益なのか再考すべき時だと思います。

「新世界秩序」が発展して「新々世界秩序(The New New World Order)」という考えが起こってきています。ザ・グローバリスト・ドット・コムというサイトに、アニー・アプルバウム(Anne Applebaum)が書いた「新々世界秩序」に関する記事がありました *(21)。その記事によると、2冊の本が「新々世界秩序」の礎になっていると述べています。1冊目はフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』 *(22)、2冊目はサミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』 *(23)です。

フランシス・フクヤマは『歴史の終わり』で次のような主張を述べています。

liberal democracy had now triumphed for good, ideological struggle was over, and universal peace was just around the corner.
 リベラル民主主義が正義の闘いに勝利した。イデオロギー闘争は終わり、恒久的な平和がやってくるのだ。

一方、サミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』で次のような主張を述べています。

there were still fundamental civilizational differences, mainly between the West, the Confucian world, and Islam.
 西洋と儒教(中国とその周辺)およびイスラムの間には根本的な文明上の違いがあるのだ。

フクヤマとハンチントンの思想上の対立は、9月11日のテロ事件が引き金となり「ハンチントン・シナリオ」が有利だと言われています。それでも儒教文明が他の文明との衝突しないように努力が必要になるのでしょう。なお『文明の衝突』は必ず読んで下さい。なぜなら、この本の英文の題名は、『The clash of civilizations and the remaking of world order』です。この後半の題名『世界秩序の再構築(the remaking of world order)』の部分が忘れられがちです。この本には、わが国の生き残り戦略のヒントが隠されているかもしれません。

最後に、この論文の主張は次のとおりです。

1;日本国憲法は英訳ではない。マッカーサーが日本人を改造するために作らせたものである。
 2;わが国はアメリカに軍事および経済面で依存することできない。自立の道を歩むべきである。
 3;わが国は米国の政治秩序に盲従してはいけない。わが国の利益のために動くべきである。

注釈

*(1) 『日本国憲法』(童話屋)2001年

*(2) 『Altered States』Michael Shaller, New York Oxford Oxford University Press, 1997

*(3) DOMESTIC FACTORS AFFECTING US POLICY TOWARD ASIA 1947-50 AND 1971-1973 by Warren Cohen
 http://www.fas.harvard.edu/~asiactr/TR_Christensen.htm

*(4) http://www.harapan.co.jp/Books/E_Books/b_Nihonron.htm

*(5) 『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)小西友七/南出康世 2001年

*(6) 『研究社・医学英和辞典』(研究社)1999年

*(7) 『心理人類学』(東京創元社)フィリップ・K・ボック 著/白川琢磨・棚橋訓 訳 1987年

*(8) 『シャーマニズムの精神人類学』(春秋社) ロジャー・ウォルシュ 著/安藤治・高岡よし子 訳1996年 P.20 The Spirit of Shamanism,1990 Roger Walsh)なお「精神人類学」という用語は翻訳者の造語です。

*(9) Peters, L., and Price-Williams, D. (1980) Towards an experiential analysis of shamanisim. American Ethnologist 7, 397-418

*(10) 『文化人類学辞典』(引文堂)1987年 P.297 P.355 P.379 より

*(11) 『マッカーサーの時代』(恒文社) 1986年『アジアにおける冷戦の起源』(木鐸社)19XX年

*(12) 『日本永久占領』(講談社)片岡鉄哉 著 1999年

*(13) 同(2);Prologue[5]より

*(14) 同(2);Epilogue P.260より

*(15) 『地政学辞典』(東洋書林)2000年 ジョン・オロッコリン 編/滝川義人 訳 P.12 より

*(16) 同(15);P.11より

*(17) Tyrrell, I. 1991. “American exceptionalism in an age of international history.” American Historical Review 96, 1031-1055

*(18) Reagan, R. 1988. “Peace and democracy for Nicaragua.” Department of State Bulletin 2133, 32-35.

*(19) 同(15);P.104 より

*(20) Kissinger briefing of March 1974, quoted in Hersh, Price of Power, 382

*(21) http://www.theglobalist.com/nor/gdiary/2001/04-30-01.shtml

*(22) The end of history and the last man 『歴史の終わり』(三笠書房)フランシス・フクヤマ 著/渡部昇一 訳 1992年

*(23) The clash of civilizations and the remaking of world order 『文明の衝突』(小学館)サミュエル・ハンチントン 著/鈴木主税 訳 1998年




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